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その女性は栗島といい、現在は婦人科医だという。
話を聞くとブラックゴーストに捕らえられていたと聞き、ジョーは暫く考える。
「日本人の科学者?」
「あなたには会ったことはなかったわね。」
温厚な雰囲気だが、目の奥には強い意志を感じられるような…。
パワフルなイメージを持った女性だ。
「フランソワーズが改造された直後から相談を受けていたわ。」
ジョーはもしやとあの事を聞いてみる。
「…実験…の話は…」
「実験?」
「…生殖機能に関する…」
ジョーが言いにくそうにボソッ言う。
「…あぁ、あれね。」
栗島博士はふーっと深く息を吐く。
「フランソワーズには早いうちに警告したわ」
「…ま、まさか、ブラックゴーストに捕らえられている時に…?」
「ええ、私達も逃げる計画を進めていた所だから、もう時間はないと思って、彼女に告げたわ」
…そんな事って…。
自分は過去の話だったのに、フランソワーズはリアルな話だったのか…。
「その時フランソワーズは?」
「自殺しようとしたわ…」
胸が急に苦しくなった。
「…あの時の彼女の気持ちを考えると…辛いわよね…」
栗島博士はジョーに頭を下げる。
「本当に…あなた達には…謝っても謝りきれない…」
そんな思いまでしていたのに…自分は…フランソワーズを責めた…。
「あなた達がブラックゴーストから逃げ出した後に、私も逃げることが出来たの、コズミ博士の所にフランソワーズがいることを知って、それから私が定期的に検診したり、話を聞いたりしていたわ。」
「薬は…貴女が?」
「ええ、私に出来ることはそれだけだったから…。その後は彼女の意思で薬を使っているわ。でも心配しないで、ちゃんと赤ちゃんは出来るから。ただ彼女は今は時期ではないと言っているだけだから。」
「時期ではない…」
「最近未来の人に、自分の子孫と言われた…と言っていたわ。」
「彼女は何と?」
「嬉しかったって言っていたわ」
嬉しい…?
「あなたとの子供を将来授かる事が出来るんだって…実はね、あなたと知り合ってから、彼女自分に子供を産むことは出来るのか…って、ブラックゴーストに捕らえられていた頃は女としての機能を全部停止してくれと言っていたのよ。」
ジョーは栗島博士の顔を見た。
「彼女は地獄の苦しみを体験したけれど、あなたと出会えた事で、人として人を愛することを思い出すことが出来たのね。」
人として人を愛する…。
「あなたは過去や未来にがんじがらめにされていて、今が見えなくなっているんじゃないのかしら?」
ジョーがハッとする。
最近フランソワーズの顔をまともに見ていなかったかもしれない。
「今、目に見えるものが全てだと…私は思いますが…どう?」
栗島博士は目の前の青年を見る。
ギルモア博士や、コズミ博士からは最強のサイボーグと聞いていた。
目の前にいるのは頼りなさげに肩を落としている青年だ。
チェックのシャツが、年齢より幼く感じられた。
精悍な顔立ちだが、どこか危なげな印象だ。
この青年をフランソワーズは愛している…。
「未来は未来、今、1日1日を大切に過ごすことが未来に繋がるわけだから…だから」
栗島博士はにっこりと笑う
「彼女を大切にして下さい。」
ジョーはソファーから立ち上がると
「ありがとうございました!!」
深々と頭を下げた。
「もし…あなた達に…」
栗島博士も立ち上がる
「赤ちゃんが授かったら、私に取り上げさせてね。」
ジョーは笑顔で頷いた。
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