その日は雨が降っていた。
テラスに括られた七夕飾りも雨で濡れていた。
フランソワーズは部屋の中から雨に濡れた七夕飾りを眺めていた。
願い事が全部雨に流されてしまいそうだった。
ジョーが雨の中テラスに出た。
七夕飾りを括っていた紐を解き、室内に入れる。
ビショビショの七夕飾りとビショビショのジョーを交互に見る。
「いらないでしょ?」
その口調は非難のものだった。
「願いを叶えたいと書いたはずだろ?叶いそうなのに何故逃げるんだ?」
「別に…逃げている訳ではないわ…ただ心の準備が出来ないというか…」
ジョーはフランソワーズを睨む。
「君には帰りを待っていてくれる人がいるじゃないか。君がいなくなった時に必死に探してくれる人がいるじゃないか!」
フランソワーズはハッとする。
ジョーがここまでしてパリに帰してくれる理由がわからなかった。
少しおせっかいじゃない?とも思っていた。
でも…
彼は兄に会っているから
兄の気持ちを感じてくれたから。
そして
彼には探してくれる人も、待っていてくれる人もいないから…。
濡れて短冊の文字も読めなくなった七夕飾りを、ジョーから受け取り、ゴミ袋に入れた。
自分からいらないでしょ?と言っていたくせに、フランソワーズの行動に少し驚いているジョーに、一言告げた。
「あなたの言葉に甘えてパリに帰るわ」
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