自分の身体を変えられてしまった事は勿論、大きな組織に追われる身にもなっていた。
組織から奪った潜水艦を住処にする。
皮肉な事に、この逃亡中に得た潜水艦の部屋が初めて自分の為に用意された自室だった。
悪夢を見て目が覚めると、船の甲板で風に当たるのが習慣になっていた。
その日は先客がいた。
「どうしたの?眠れないの?」
声を掛けたら振り返った彼女の目には涙が伝っていた。
手で顔をぬぐい、笑顔を見せる。
「あなたこそ、眠れないの?」
「目が覚めちゃった」
彼女の隣に並ぶ。
「いつまでこうしているんだろう」
「わからないわ、この先どうなるのかも」
「キミも…誘拐されたんだよね?」
彼女の顔が一瞬曇る。
「そうよ…あなたが誘拐されるかなり前…」
彼女は家族の事、夢があった事、誘拐される前の楽しかった日々を話し始める。
その話は、この前まで…この身体にされる前の自分の生活とはかけ離れていた。
幸せだった彼女に突然襲った…不幸。
この生活が終われるのであれば、彼女は家族の元に帰るだろう。
帰る場所なんて…
自分にはない。
彼女の涙も
戻りたい過去への想いなのだろう。
過去か…
「眠くなってきたみたい、キミも眠った方がいいよ、おやすみ」
彼女に背を向け自室に戻る。
結局朝まで眠る事はなかった。
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