仕事帰りに覗くショーウィンドウ
海の家の手伝いだけだから、水着などいらないと思いながらも、もしかしたら?
という期待で一度通り過ぎたのだが、戻ってみた。
もう何年も海には行っていない。
ショーウィンドウのマネキンをじっと見る。
それからしばらくして…
「買っちゃった…」
期待している自分に落ち着け!と思う心と、水着を買っただけで浮ついている心。
「中に着ているだけなら…いいわよね」
誰に言うわけでもなくひとり言い訳みたいに呟く。
「あら?美香さん?」
みんなが苗字で呼ぶ中、一人だけ名前で呼んでくれる人がいる。
美香は声のする方を向くと、お辞儀をする。
そこには笑顔のフランソワーズ。
「こんばんは、今日はお一人ですか?」
「私も仕事帰りなの」
フィリップから聞いていた。
フランソワーズはバレエスクールの講師をしていると。
「フランソワーズさんは明日海の家のお手伝いを頼まれているのですか?」
「えぇ、明日は仕事もないので…あ、美香さんもお手伝い頼まれたの?」
その顔は嬉しそうに見えた。
「フィリップさんに…頼まれまして…」
小さな声でボソっと言った言葉を、フランソワーズは聞き漏らさなかった。
「そう!フィリップさんが!そうなの!」
まるで自分の事のように喜ぶフランソワーズをじっと見つめる美香。
「明日が楽しみになったわ!早く帰って休まなきゃ!明日よろしくね!」
そう言い残し、駅に向かって早足で立ち去った。
一人残された美香は、水着の入った袋を抱えたまま、しばらく動かずにいた。
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