桜は満開になり、桜並木には沢山の人が集まり、思い思いの時間を過ごす。
こんな当たり前の幸せが、奇跡だという事に誰も気づいてはいないだろう。
当たり前のように一日が過ぎ
当たり前のように朝が来る
当たり前の日を守ってくれた人がいた事を誰も知らない。
当たり前の日と引き換えにいなくなった人の事も誰も知らない。
世界が救われても、隣で笑う人がいなければ…
私の当たり前はもうどこにもない
満開の桜並木も色をなくし
花見で盛り上がる人々の声が遠くに聞こえる。
言いようのない怒り
去年の約束
握られた手の感触
手を離したあの瞬間…
あの瞬間から私の右手は何かを探している。
「今年は忙しくて行けなかったから、来年は桜の名所に連れて行くよ」
…ウソつき…
右手をぐっと握りしめる。
その瞬間
握った右手に何かが覆いかぶさった。
それはとても暖かく、優しい
凍っていた心を溶かすような
おそるおそる顔を右に向ける。
「ごめん、待たせちゃったね」
どうして?
あなたはもう…
「…いき…て…るの?」
右隣にいる人は手を離したあの時と全く変わらない姿で笑っている。
「実は…幽霊です」
「え?」
ぱっと離そうとした手を彼は離さなかった。
指を絡める。
「幽霊が手を握られますか?」
「どうして…あなた…あの時」
「…奇跡」
「え?」
「僕にもよくわからない、気がついたら戻ってきていた。以前と変わらない姿で…」
もう一度見上げる。
会いたかった笑顔がそこにある。
夢じゃない
奇跡でも何でもいい
説明なんてできなくてもいい
今目の前にあなたがいるだけで
無意識に涙が零れる。
その瞬間回りの音が戻ってきて、桜並木も色をつける。
「もう、この手を離さないから」
何かを探していた右手が、彼の大きな手に包まれる。
「ありがとう…戻ってきてくれて…ありがとう」
彼は笑いながら私を優しく抱きしめた。
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