アルベルトはピアノを弾いていた。
「 ノクターン…ショパンね。」
フランソワーズがピアノの脇に座る。
まだ右手に包帯を巻いている。
「お前…起きていいのか?」
「過保護の主治医がいないすきよ」
舌を出す。
「アイツはアイツなりにお前を守れなかった事を後悔しているんだ。」
「ねぇ…続き聞きたいわ」
おっと、話を始めたら手が動いてなかった。
アルベルトは再び鍵盤に指を落とす。
フランソワーズは目を閉じてピアノの音色を聴いていた。
まるであの日のヒルダみたいだ…。
「私の言ったこと…間違っていたのかしら?」
「何が…だ?」
「キョウコさんが亡くなった事で、ユウジさんはは復讐鬼になった…でも復讐をしても亡くなった恋人が喜ぶのか…と思って…」
「…」
「あなたが亡くなった恋人の分まで生きる事、それが亡くなった恋人も一番安心するのでは…なんて綺麗事だったみたいね…」
「本当の所は…」
アルベルトの反応に、フランソワーズは顔を上げる。
「俺もよくわからない。亡くなった人間に聞くことは出来ないからな…」
「…そうね」
フランソワーズは窓の外を見る。
自分の胸で息を引き取ったキョウコを思い出していた。
最後の言葉は
「ユウジ…助けて」
だった。
「今日はアイツの命日でね」
アルベルトの告白にはっとするフランソワーズ。
「何となくドイツに居たくなくてつい日本に来ちまった訳だ。」
「そうだったの…」
「この曲はアイツが好きだったんだよ」
曲を続ける。
レクイエム…ではないけれど、届けばいい…と思いながら。
「ヒルダさんは幸せだわ」
「何故だ?」
「亡くなってもこんなに愛されている…」
アルベルトは無言でピアノを弾く。
リビングのドアが開く。
「フランソワーズ!!何しているんだ!!」
白衣を着たジョーが勢いよく入って来た。
「見つかっちゃった」
いらずらがバレた子供のような顔をする。
「全く!!動き回っていたらいつまでも治らないだろ?治す気あるの?」
ジョーのお小言など全く耳に入っていない様子で、アルベルトに向かい
「素敵なピアノありがとう。」
とにっこり笑う。
ジョーはフランソワーズの怪我をしていない方の手をしっかりと握り、リビングを後にした。
…その手を離すなよ…。
アルベルトは心で呟く。
「あなたらしいわね」
…空耳か…。
俺の事を許してくれるかどうかなんてわからない。
でも…フランソワーズの言った通り、自分が生きることがヒルダの喜びであるのなら…。
生きるのも…悪くないな…。
アルベルトは深呼吸をし、ピアノを離れた。
~おしまい~
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