交通の便の悪い郊外に建つマンションに住んでいた。
何故そんな所に住んでいるのかと、仕事仲間とかによく聞かれた。
きっかけは電車を乗り過ごしてしまった事だった。
乗り換えをしようと電車から降り、ホームで待っている間に見えた町の景色が、昔何処かで見たような、懐かしい気持ちにさせた。
気がついたらその駅を出て、町を歩いていた。
それがいつなのか、本当に来た事があるのか、記憶は曖昧だったが、心が落ちついた。
それから何度かこの町を眺めに来た。
何度目かに駅を出た時に、マンションが出来る事を知った。
最上階の角部屋に住める事になるとは思わなかったが、窓からは町が見渡せた。
いつからかここで彼女と暮らしたいと思うようになった。
時々遊びには来てくれたが、一緒に暮らすとなると意味合いが違うのか、それはなかなか実現しなかった。
家に帰ると「おかえりなさい」の笑顔と、暖かい手料理が待っていると思うと、とても幸せな気持ちになった。
スタッフ達に付き合いが悪くなったと言われても、仕事が終わるとマンションに向かった。
いつもより早く片付いたので、たまには外で食事をしようと考えた。
連絡しようと思ったが、早く帰って驚かせよう、なんて思った。
そっと部屋のドアを開ける。
テレビをじっと見つめている。
テレビに映るのは…
アズナブール先生…
わかっていた。
彼女はこの生活を楽しんでいない事を。
僕は自分のマンションという鳥かごに、彼女を閉じ込めているだけだったという事も。
ここに来てから彼女が時々見せる心がどこかに行っているような態度と、テレビの中の先生の姿に、彼女がフランスに帰りたいと思っている事に気づく。
僕が目の前にいるのに気づいていないなんて…
側にあったリモコンを手に取り、テレビを消した。
ビクッとして、僕を見上げた。
「お、おかえりなさい、早かったのね、今、夕飯の支度をするから…」
慌ててソファーから立ち上がろうとした彼女の肩をそっと押さえる。
「いいよ…ちょっと話そうか…」
そのままソファーに座らせて、僕もソファーに腰掛ける。
「ボクといると面白くないみたいだよね」
自分が悪いのに
彼女を責めている。
「え?」
彼女は小首を傾げる。
「キミはまだアズナブール先生の想いを捨てきれないでいるんじゃないのか?」
言ってはいけない…でも言わずにはいられなかった。
「アズナブール先生…?」
さっきテレビで見ていただろう?
「ここに来てからキミはずっと心ここにあらずだ。そんなにアズナブール先生の事が気になるなら、フランスに帰ればいいじゃないか!」
「そんな…」
言ってしまった…
彼女は僕をじっと見つめ、そして1度俯くと、すぐ顔を上げた。
「あなたこそ…」
「女王の事をまだ想っているじゃない!
」
え?
何を言っているんだ…?
女王?
あの時の事をまだ…
女王には助ける事が出来なかった罪悪感はある。
キミはわかってくれていると
思っていたのに…
大きく息を吐く
多分今何を言っても彼女は聞いてはくれないだろう。
落ちついたらちゃんと話をしようと思っていたが、フランソワーズの気持ちが…
心がどこかに行ってしまっていたから…
「言い訳はしないよ、したって今のキミじゃ話を聞いてくれそうもない。」
フランソワーズはキッと僕を睨むと
「もういいわ、わかりました」
そう言って出て行った。
何も言えず
追う事も出来なかった。
ただ
何故こうなってしまったのか
混乱するだけだった。
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