翌日、約束の時間に現れた彼女を見て、また一緒にいる事が出来ると一瞬でも思ってしまった自分が嫌になる。
彼女は幸せな生活を捨ててきたのだから。
今の自分が出来る事…
気の利いた言葉も言えずただ手を握る事しか出来なかった。
彼女は俯いていた。
泣いているんだとその時思った。
ごめん、君の幸せをまた奪ってしまった。
日本に戻ると、慌ただしい時間が過ぎる。
気が付いたら地球を離れていた。
離れていく地球をじっと見ているフランソワーズに声をかける。
「ごめん、キミをまた危ない目に遭わせている」
彼女は振り返り、僕を見る。
「あなたに再会してから色々ありすぎて、ゆっくり話もしていなかったわね」
「確かにそうだ」
そうだな、僕は時々君を見ていたから、久しぶりな感じがしなかったが、君は久しぶりだったんだ。
「あなたはまだ走っているの?」
アズナブール先生のスタジオに行った時、レッスン生達が騒いでいたのを思い出した。
あの国ではモータースポーツは人気らしいが、彼女の言い方では彼女自身興味がないのだと思った。
興味のない話をしても仕方ないだろうと、「まあね」とだけ返し、話題を変える。
「キミはかなり活躍してるようだよね」
「え?」
彼女は驚いた顔をして見ている。
「実はヨーロッパに滞在している時、時間があればキミの公演を見させてもらっていたよ」
「え…来てくれていたのなら顔を出してくれれば…」
顔を出したら、何もない時に君に逢ったら…
離れたくなくなるから
ずっと側にいたくなるから
君の幸せを考えたら…辛いけど逢わずに帰るしかなかった。
「キミが人間らしく暮らせている時には、ボクは不要なんだよ」
彼女は黙って僕を見ていた。
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