とあるホテルのラウンジ。
アズナブールはじっと待っていた。
あの青年がフランソワーズに言わないわけがない…。
アズナブールもジョーの「何か」を感じていた。
フランソワーズが突然いなくなった事にも何らかの関わりがあり、その上で幸せに出来ない…と言ったのだろうと。
色々考えていたその時、入り口に待ち焦がれた人が入ってきた。
あの頃と何ら変わらない。
彼女が再びパリの舞台で舞ってくれる事を少しだけ願っていた。
フランソワーズはアズナブールの姿を見つけると、真っ直ぐ歩いてきた。
向いに座ると、ウェイターが持ってきた水を飲む。
「何故?」
最初に出た言葉にアズナブールは首を傾げる。
「ジョーに…彼と話をしたの?」
どうやら怒っているようだ。
「時間がなかったから…、キミが返事をしてくれなかったから…ミセス小松に相談したら、彼に連絡を取ってくれたんだ。」
「私も曖昧な態度を取っていた事は謝るわ。いきなりで気が動転していたから…でも。はっきりと言わなければあなたも先に進めないものね…」
フランソワーズは真っ直ぐアズナブールを見た。
アズナブールは初めてその瞳を自分の知らないフランソワーズだと思い知らされた。
「今になってみるとわかることがあるの…あの頃の、あなたとお付き合いしていた頃の私は、あなたに恋していたんじゃなく、恋に恋していたの…。」
あまりにも若かった…。
「今、あなたには何の感情もないわ。バレエももう舞台に立とうとは思っていないの。…出来ない…というのが正しいかもしれないけれど…」
「でも、キミはバレエスクールに通っているじゃないか!!」
「あれはレッスンだけよ。もう本格的にやることもないわ」
「…彼がそうさせるのか?」
アズナブールはバレエをやらないことがどうしても納得いかなかった。
「違うわ…私が…彼を支えたいと思っているだけだから…。」
「幸せに出来ないと言っている男でもいいのか?!」
思わず声を荒げてしまった。
自分は彼女を幸せにする自信があるのに…彼女は幸せに出来ないと言っている男と一緒にいたいという。
納得出来ない。
「幸せって形は人それぞれ違うんじゃないかしら?彼は私を幸せに出来ない…と言ったかもしれないけれど、私は充分幸せよ。これ以上望んだらバチが当たるくらいよ。」
アズナブールは絶句する。
幸せ…って何なのだ…と。
自分が揃えた最高のカードを蹴散らしてもあの男の所に行ってしまうのか…。
もう自分は彼女の思い出の一つでしかないのか…。
その時、フランソワーズの携帯に着信があった。
「ごめんなさい」
席を離れて電話に出て話をしている。
「え?アフガニスタンで地雷を踏んだ!?」
彼女の口から似合わない地名と単語が聞こえた…ような気がした。
電話を切ると、戻ってきて「ごめんなさい、急用なの。アズナブール先生もバレエ頑張ってください。さよなら」
と、一方的に話すと、足早にラウンジを後にする。
…水しか飲んでないじゃないか…。
フラれたのに、何故か笑えた。
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