「博士!どういう事なんですか!」
栗原博士は突然駆け込んできたフランソワーズに驚く事もなく
「さすがね」
と感心する。
「説明してくれませんか?」
興奮気味のフランソワーズを落ち着かせるように、後から来たジョーが問う。
「ここでは何ですから中に…」
栗原家のお手伝いさんに促され中に入る。
いつもは診療室か研究室にしか入った事がなく、栗原家の居間に通されたのは初めてだった。
リビングには大きな暖炉があり、そこには沢山のフォトフレームが飾ってあった。
真ん中には両親とアンナの姿。
ジョーがその写真を眺めていると、栗原博士が「その写真はアンナが中学生の頃よ」と告げた。
外見は今と変わっていない。
中学生で成長が止まっている。
写真の中の笑顔は両親を信頼しきっている表情そのもので、偽りなどなく思えた。
「その写真を撮影した少し後にアンナは病気にかかってしまったの…」
フランソワーズはソファーに座る事もせず、博士に背を向け窓の外を眺めていた。
そうしていないと博士を問い詰めてしまいそうだった。
ジョーもそんなフランソワーズの様子を気にかけながらも、博士と向かい合わせでじっと次の言葉を待った。
「もう治らないと…このままでは死んでしまうと…」
「…それでアンナさんの身体に…機械を?」
フランソワーズが静かに聞く。
「死なせたくなかった。夫は自分の持つあらゆる技術をアンナに使った。手術は成功し、生きる事が出来た…でも」
「でも?」
ジョーが繰り返す。
「身体は中学生の頃のままで成長しない。その現実に気づいたアンナは私たちを問い詰めた。もう解る年になったからと夫は全てをアンナに話したわ…アンナはそこまでして…生きたくなかった…と」
フランソワーズが栗原博士の方を向く。
「もし、自分の正体がバレたらとその恐怖の方が大きくなって、自分の殻に閉じこもるようになったの…」
フランソワーズがぎゅっと拳を握る。
「同年代の…同じ悩みをもつ貴方達となら、アンナもきっと心を開いてくれると思ったから…ギルモア博士にお願いしたの」
「アンナさんはお父さんには?」
「話を聞いた以来会っていないわ、夫は今アメリカにいるけれど、向こうでも訪ねては来ないらしいわ」
ジョーは栗原博士と話をしながら、フランソワーズの様子を気にしていた。
フランソワーズは話を聞き終わると
「ジョー、帰りましょう」と言い、栗原博士に頭を下げると、外に出てしまった。
「フランソワーズは気持ちの整理が出来ていないんですよ、帰ってアンナさんに話を聞いてみます。」
ジョーは栗原博士にそう言うと、フランソワーズの後を追う。
2人が乗った車が遠ざかるのを栗原博士はぼんやりと眺めていた。
「生きてさえいれば…」
博士はひとり呟いた。
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