アンナがリビングに入る。
朝からこの家は静まり返っていた。
フランソワーズは賑やかだと言っていたけれど、これでは自分の日々の生活と変わりない。
…やっぱり私はいつもひとりぼっち…。
キッチンのテーブルの上にはラップがかかったサンドイッチが置いてあった。
その上にはフランソワーズが書いたと思われるメモ
ちょっと出かけてきます。
サンドイッチ食べてね。
冷蔵庫からミルクを出すと、コップに並々とつぎ、サンドイッチを頬張った。
いつも無言でごはんを食べる。
一人暮らしの長い人は独り言をよく言うというけれど、アンナの日常は言葉のない時間の方が多い。
誰もいない家の中で独り言を言ったところで、エネルギーが消耗するだけだと考えていた。
休日は誰とも話す事なく、アパートで一人過ごす事もある。
研究室の学生は放課後や休日の予定をきっちり埋めなければ気が済まないかのように、沢山の約束をしている。
アメリカなら、自分の容姿が目立たなくていいかと思ったが、ストレートな物言いいが苦手で、最初は沢山いた友達もひとりふたり離れていき、今は休日の予定も特にない。
どこにいても私の生活は変わる事はないのかもしれない。
ふと昨日の夜を思い出す。
窓から見えるテラスにいたあの2人を。
フランソワーズがジョーに向けていた表情にどきりとした自分がいた。
恋…。
眠る前にフランソワーズと少し話をした。
彼女は自分の話にきちんと耳を傾けてくれた。
彼女なら…
また話を聞いてもらいたかったのに、留守で少しがっかりする。
その時
電話が鳴る。
どうしよう、誰もいないから出なくてもいいよね…
なかなか電話は鳴り止まない。
あまりに諦めの悪い相手に、もしかしたらフランソワーズが自分に用があってかけてきているのかと受話器を取る。
「もしもし…」
「あ〜!やっと出たのかよ!何やってんだよ!」
いきなり聞いた事がない声に驚いていると
「おい!何黙ってんだよ!」
と大音量が返ってくる。
「あ…あの、この家はみんな出かけていて…私は…留守番で…」
誰だかわからない上に、怒鳴られてすっかり萎縮したアンナが自信なさそうに話す。
「あぁん?お前フランソワーズじゃねーのかよ?誰なんだ?」
「しばらくここでお世話になる者で…」
「ふーん、誰もいねぇんだな、じゃいいわ、ジョーんとこ直接連絡するから」
ガチャ
「…」
一体何なの?
アンナは受話器を握ったまま唖然としていた。
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