ある日とあるカフェの片隅で
呼び出したのは私。
前日からコトバを考えて、自分で決めた事なのに眠れなかった。
約束の時間より30分も早く着いてしまう。
街の真ん中にあるお洒落なカフェ。
敢えて目立たない隅っこに座ったのは、多分見つけてもらいたいから。
街の雑踏が流れ込んだようにカフェ内も賑やかだ。
「今日のコーヒー豆は…」説明を受けたが、耳には入って来なかった。
自分の心臓の音だけが身体中鳴り響いていた。
そのコーヒーに砂糖をたっぷり入れた。
恋って…こんなに甘いのかな?
しばらくすると、店に1人の男性が入って来た。
モノクロの画像にその人だけカラーで入って来たような…。
白いシャツがふわりと歩くたび揺れている。
「あ」
彼が気付いたようだ。
「ごめん、待った?」
「…いえ、ちょっとだけ」
すかさずやってきた店員に、コーヒーを注文する。
「外、暑いね」
彼と向かいあって話すのは初めてかもしれない。
父親が研究者で、通っている研究所が何者かによって襲われた。
偶然届け物を頼まれた私は事件に巻き込まれてしまった。
彼に助けてもらわなければ…多分…死んでいた。
彼もまた偶然違う研究所からの遣いでその場にいた。
強く…でも優しく抱きしめられた。
あの温もりを忘れる事が出来なかった。
命は助かったが、怪我をした。
入院中も時々顔を出してくれた。
本当に幸せな時間だった。
退院してから逢えなくなった日々に、想いが募る。
呼び出したら来てくれるかと、思い切って連絡してみた。
彼は忙しそうだったが、私の為に時間を作ってくれた。
気のつく人なら…私に少しでも想いがあれば…それはどういう事からわかるだろう。
彼はコーヒーを一口飲むと
「用事って…何?」と聞いてきた。
私は停止したように動けなくなった。
今ここで言ってしまったら…。
全てが終わってしまうような気がした。
彼は…私が呼び出した意味を理解していない。
何かの相談事だと思っている。
…という事は。
私はとびきりの笑顔を貼り付け
「島村さん、あの時は本当にありがとうございました。きちんとお礼が言いたくて」と言った。
彼は「え?」と言ったような顔をして「そんな、改まって…当たり前の事をしただけだよ」と照れている。
「また…こうやってお話させてください」
一瞬戸惑いが見えた。
その時点で答えは出ているんだから。
でも…。
やっぱり諦められなかった。
心では泣きたいと思いながらも、不思議と涙は出なかった。
冷めてしまった甘いだけのコーヒーを口に入れる。
恋って…思うようにはいかないものね。
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