「佐伯さん、ごめんね、せっかくの休暇なのにバイトさせちゃって」
怒涛の1日目が終わり、片付けをしている時、フィリップが声をかける。
ここに来て初めて話をするのかもしれない。
ジョーやフランソワーズは時々話しかけて来てくれたが、フィリップは全く話しかけて来なかった。
こっちから話すのも躊躇い、すれ違っても無言だった。
Tシャツの下の水着は何の役にも立たなかった。
「学生時代のアルバイト思い出しました。とても楽しかったですよ!」
美香はわざと明るく振る舞う。
「よかった…こんなに忙しいとは思わなかったからさ、実家に帰った方がよかったんじゃないかと…」
「そんな事ないです!フィリップさんに誘っていただけただけで嬉しかったんですから」
その言葉の意味はフィリップには伝わらない。
伝わるなら言わない。
「実はね、フランソワーズさんが佐伯さんも是非誘って欲しいって言ったんだ。」
そうなんだ…
フィリップさんの提案じゃないんだ…
結局は…
みんな
フランソワーズさんが…
なんだ
「どうしたの?」
急に黙った美香にフィリップが心配する。
「私…まだまだだなぁって思って」
「?」
フィリップが頭の上にハテナマークを付けている。
気にせずフランソワーズの元に。
「お疲れ様でした。フランソワーズさんがフィリップさんにお話したんですって?」
「あら、そんな事言ってたの?もう!」
フランソワーズはフィリップを睨む。
何故睨まれたかわからずフィリップは再び頭にハテナマークを付けている。
「あなたの気持ち、私にはわかるから」
フランソワーズは美香の手を握る。
「応援しているわ」
「そ…そんなんじゃ!」
簡単に核心を突かれあたふたする美香
「羨ましいって思うの…」
「え?」
「あなたが」
同性が見ても美しくて、男性が思わず振り返るほどで、これまた女性が振り返るほどの彼氏がいて…
…フィリップさんの心までも独り占めしているのに
なのに
何故私なんかを羨ましいと?
その時一瞬、ジョーの言葉も思い出す
「ありがとう」
帰りはフィリップが送ってくれた。
「海の家は明日までなんですか?」
「お試しで店を出したらしいよ、だから期間も短いみたい。口コミって凄いね、シャワールームも他の娯楽もないのに、ラーメンだけであの混雑だよ」
疲れたって顔でフィリップが笑う。
「美味しいですものね、あのラーメン」
「ダイジンさん、怒ってばかりだったね」
名前があるのに何故か「ダイジン」と呼ばれている店主。
飯店も大繁盛で、ジョーやフランソワーズは時々手伝いに行っているらしい。
あのコックとギルモア博士、ジョーやフランソワーズとの繋がりがよくわからない。
触れてはいけないようで黙ってはいるが、3人の様子は最近の繋がりでない事がわかるくらいだった。
フィリップさんは…
フランソワーズさんの事、どこまで知っているのかしら…
まっすぐ前を見て運転しているフィリップを美香は無言で見つめていた。
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