ハトランド国の大使館。
それほど大きくないが、手入れの行き届いた庭と、客をもてなすパーティースペースがある。
皇太子の来日に、親交の深い国の大使らがかけつける。
ゴーチェはフランソワーズに青いカクテルを渡す。
「ありがとう」
「君の瞳のような色だ。綺麗だ」
歯の浮くような言葉だが、場のせいか嬉しくなる。
「今日のドレスも、キミの美しさを一段と際立たせてくれているね」
ゴーチェはフランソワーズに熱い視線を送る。
「後でうちのシェフがキミの為にバースデーケーキを用意してくれるらしい。キミの国のパティシエにも勝るとも劣らない腕を持っているよ」
ふと、ダイジンの顔が浮かぶ。
今は中国に食料の買い出しに出かけている。
バースデーのご馳走が作れず申し訳けない。と言ってたっけ…。
ゲスト達も、フランソワーズを気にしている。
未来のお妃候補という声が聞こえてくる。
…どんなに小声で話しても、聞こえるんだから…。
「フランソワーズ、ちょっといいかな…」
ゴーチェが庭に連れ出す。
冬の夜だ。
暖かい部屋から急に冷んやりとする。
「ハッピーバースデー!フランソワーズ」
ゴーチェが笑顔で箱を差し出す。
「え…?…あ、ありがとう…」
「ハトランド国でしか採れない貴重な鉱石を使ったネックレスだよ。世界で一つのオーダーメイドさ」
箱を開けると、まるでダイヤのように、繊細にカットされた鉱石が並んだネックレスが綺麗に納められている。
日本円にしたら、億はするだろう。
「こ…こんな高価なもの…戴く訳には…」
フランソワーズは箱ごとゴーチェに突き返す。
「キミの為に作ったものなのだから、受け取って貰わなければ困ります。これは、私のフランソワーズへの思いなのですから…」
思い…。
「フランソワーズに自分の思いを伝えたくて、来日したのです。あなたを将来妃に迎えたい…急がなくてもいい、ゆっくり考えてもらってもいい」
「でも…私は…」
「全てを承知の上で言っているのです。全てを…受け入れる覚悟もあります。」
全てを受け入れる?
…その言葉の意味を、この人はわかっているのだろうか…。
「…ごめんなさい。やっぱり受け取れない」
フランソワーズはにっこり笑う。
「私は…この国に残ってやらなければならない事が沢山あるわ。あなたの国には行けない。」
フランソワーズが屋内に戻り、帰り仕度を始めた。
「フランソワーズ、何を?」
「帰るわ、ごめんなさい」
「まだパーティーは終わりじゃない、バースデーケーキだって…」
「誕生日は、自分にとって一番大切な人と過ごすのが一番だと…今わかったわ」
「大切な…人?」
ゴーチェは考える。ここ数日、フランソワーズと一緒に過ごしていたが、そのような人物の存在はなかった。
「えぇ、多分今頃、家でお腹空かせて待ってるわ」
タクシーで帰ると言うフランソワーズを説得し、車を出させた。
このパーティーのホストであるゴーチェはこの場を去るわけにはいかない。
フランソワーズに聞きたい事や伝えたい事も沢山あった。
「…早すぎたのか…」
唇を噛む。
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