研究所の一角。
規則的なキーの音だけが聞こえる。
博士とイワンは熱心に各国の学会に顔を出している。
今日帰国して、コナヤギ博士との研究を再開した。
自国にいる仲間もみな自分のやりたい事に没頭している。
みんな自分の時間を手に入れた。
平和…。
平和?
勃発している内戦、こうしている間にもどこかの国で誰かが戦死している。
自分達にはどうにもならない。
ただ目を瞑っているだけ。
パチン、と、電気がついた。
「どうした?こんな真っ暗な部屋で」
ジェロニモが入ってきた。
「留守中こっちが手薄になるから整理中…と言っても最近は事件らしい事件もないしね」
「やっと落ちつくのか?」
「コヤナギ博士の今の研究は、僕たちが実験台にならなくてよくなるかもしれない。誰かが戻って来て実験台中はデータ収集だと軟禁されなくてもよくなる…その代わり他の研究員には内緒のトップシークレットだ」
ジョーは小声でジェロニモに話す。
誰も聞いていないんだから何も小声でなくてもいいのだが、ジェロニモもつい小声になる。
「お前もあっちだこっちだと大変だな」
「ジェロニモはいつまでいるの?」
「あさってに帰ろうと思う」
「本当に暖炉に火を入れるだけに来たの?」
「そうだ…悪いか?」
「いや、別に悪くはないけど」
「この家が寒すぎたんだ、この家は人が集まらないほうがもちろんいいのだが…人の温もりが感じられなくなっていた」
「そうかな…」
「お前はしばらくいなかったんだろ?いない間、フランソワーズは独りだった」
「まぁ…そうなるね」
「独りでいるのに耐えられなくなった頃にタイミングよくハトランドの皇太子がやってきた」
「今年は薔薇じゃなく、本人だった訳だ」
「誕生日…忘れていた訳ではないんだろう?」
「もちろん、明日時間を取って食事でも…位は考えていたさ」
「皇太子に先を越されたな」
「まぁ、先ほど聞いたばかりですが」
「努力を怠ったんだ」
「…努力…ねぇ」
「同じ家に住んでいてすれ違いばかりなんてなかなか出来ることじゃないだろう?連絡もせずにだ」
「帰れるアテもないのに、連絡できないよ」
「時々は帰れたんだろう?」
「空き時間にふらっとね。フランソワーズはいつもいなかったし」
「これからもそんな事を繰り返す気か?そんなんじゃ皇太子に心が動いても仕方ないな。」
「言うなぁ」
「努力だ、何事も」
ジェロニモはそう言うと、研究室を出た。
「努力ねぇ…」
コンピュータをシャットダウンし、ジョーも研究室を出る。
リビングには誰もいない。
まだ暖炉の火が燻っていた。
とにかく目の前の山を越える事に全力を注いでいた。
周りなど…見えなかった。
フランソワーズの部屋の前で立ち止まる。
もう休んでいるようだ。
「寂しい思いさせて…ごめん」
ドアに向かって呟いた。
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