「ねぇ、帰りに寄って欲しいお店があるの」
フランソワーズはジョーに腕を絡める。
「また新しい店を開拓するの?」
「ちょっと郊外なんだけど、美味しいアップルパイを売っているんですって」
「バレエの日はいつもこれだ」
ジョーは呆れる。
フランソワーズは今、バレエスクールでジュニアのクラスを教えている。
アズナブール先生の登場で、フランソワーズのバレエの才能がスクールに知れる事になる。
スクールを経営している小松は、こんないい話はないからと、ジュニアクラスの指導を依頼した。
教師になるという事は、ジュニアクラスの大会や発表会などで家を開ける事にもなる。
博士とジョーに相談をした。
博士はやりたい事ならばと快諾してくれたが、亭主関白気取りだったジョーは、フランソワーズが働く事に最初は否定的だった。
小松に「そんな男は古い!」とバッサリ斬られて、渋々承諾したのだが、生き生きとしているフランソワーズを見て、今はよかったと思っていた。
フランソワーズが仕事を始めた事で、お互いなかなか時間が取れなくなった。
久しぶりに時間が取れ、一緒に映画を見た訳だった。
フランソワーズには、ジョーと会ってからある違和感を感じていた。
誰かの視線をずっと感じていた。
それは自分一人の時には何にも感じなかったのだが、ジョーと会ってからかなり強く感じられた。
普通の人間では、視聴覚を強くされていないジョーでさえ、その違和感には気づかなかっただろう。
気のせいでは済まされない強い視線に、違和感を感じながら、フランソワーズはジョーの車に乗り込んだ。
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