ゆらゆらゆら・・・。
何も見えない、聞こえない。
このままずっとここにいられたらいいのに・・・。
何もかも忘れて・・・。
・・・そういう訳にはいかないみたいだ。
お姫様が呼んでいる。
ジョーは一旦深く潜ると、浮上した。
「やっと見つけたわ」
海岸では、白いサマードレスを着たフランソワーズが立っていた。
「また服を着たまま海に入って!」
犬みたいに身体を振りながら岸に上がる。
「おっと」
わざとつまづいた振りをして、フランソワーズに抱きつく。
「きゃっ!!」
「あーあっ、濡れちゃったね」
「もう、どうするのよ」
「何時に空港に着くの?」
「お昼過ぎと言っていたわ」
「まだ時間がある。一緒にシャワーを浴びましょう」
「もう、ジョーのエッチ」
「ははは、男はみなそうです」
話は1週間前に遡る。
栗原博士から、突然聞いた話。
「私には娘がいるの」
「え…?」
「今はアメリカの大学に通っているわ。中高は日本だったけれど、全寮制の女子高に通っていたから、あまり一緒に暮らしたことはないわ」
「…そうなんですか…」
「娘は私と同じ産婦人科医になりたいと勉強をしているの。いずれは私の跡を継いでもらいたいと思っているわ」
「頼もしいですね」
「娘が夏休みを使って日本に戻ってくるんだけれど、しばらくお宅に置いてもらいたいの」
「え…?せっかく親子水入らずなのに」
「博士とも話をしたんだけど、生体工学の知識も持った方がいいかと思って、島村君もしばらくいると言っていたから。」
「はぁ…」
「ご迷惑…かしら?」
「いえ、そんなことはないですわ」
栗原博士は随分長い間お世話になっているが、家族の話など全く聞いた事がなかった。
まさか同年代の娘さんがいるなんて…。
何故娘さんの話をしなかったのだろう。
何故離れて暮らしていたのだろう。
ギルモア博士だって栗原博士とは長い付き合いなのに、そのような話を全く聞いた事がなかった。
何か…事情が?
「何を考え込んでいるの?」
シャワーを浴び、
首にバスタオルをかけ、上半身裸のジョーが冷蔵庫を開けながら言う。
「栗原博士は娘さんの話を一度もした事がないの…突然話をしたかと思えばしばらく面倒見て欲しいって…おかしくない?」
「だって全寮制の学校とアメリカの大学だろ?離れていても仕方ないんじゃない?」
気にする様子もなくミネラルウォーターを一気飲みする。
「ジョー、そろそろ迎えに行かないと」
「あ、そうだね」
ジョーはタオルをフランソワーズの頭にかけるとキッチンを出て行く。
「もう!濡れてる!」
「あんまり深く考えない事だよ、笑顔で迎えてあげようよ!」
抗議するフランソワーズにジョーは笑ってそう言った。
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