こんな気まずい車内は初めてだった。
ジョーは栗原博士とアンナが車から降りたのを確認すると、大きく息を吐く。
車庫に車を入れている時、ミラー越しにフランソワーズの姿を確認する
「あとは任せた」
思わず独り言を言う。
栗原博士は用事があるとかで、邸には入らず帰ると言う。
車から降りたジョーが咄嗟に「送りますよ」と言った。
フランソワーズはアンナをゲストルームへ案内する。
「どうぞ、部屋の物は好きに使っていいわ」
「あの…」
聞き取れない程の小さな声だったが、フランソワーズには「聞こえた」
「なあに?」
「お世話になります」
アンナはぺこりと頭を下げる。
フランソワーズも「こちらこそ」と笑う。
不思議そうにしているアンナに
「アンナさんはお母さんと同じ産婦人科医を目指しているんでしょ?私は今お母さんに診てもらっているからいずれはあなたに診てもらいたいわ」
「そんな…なれるかどうかはわかりません…ただ勉強しているだけで…」
「お母さんは素晴らしい方よ、そんなお母さんの娘さんでアンナさんが羨ましいわ」
一瞬アンナの顔が曇ったのをフランソワーズは見逃さなかった。
栗原博士が全く娘の話をしなかった事、その娘が母の話に顔を曇らせる事。
何かの解決策に彼女はここに連れて来られた…
「長旅で疲れたでしょ?しばらく休んだら?」
フランソワーズはそう言い残しドアを閉めた。
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