すっかり元気になったジョーは、リビングをウロウロしている。
「フランソワーズは?」
ソファーで本を読んでいるアルベルトに聞く。
「お前さんを助けてくれたお礼にデートだそうだ」
「え?聞いてないよ、どこ行ったの?」
「さあな」
アルベルトは口角を上げる。
自室に戻って間もなくジョーがもどってくる。
手には財布と車の鍵
「どこに行くんだ?」
アルベルトは見透かしたような顔をする。
「ちょっとコンビニ」
「お前の命の恩人から頼まれていてな、お前さんに投与した薬、臨床実験していないから、何か副作用が出るかもしれないから、1日様子を見ていてくれと」
「…」
「だから今日は外出禁止だ。アイツだってお前の為に頑張ったんだから、ご褒美くらいくれたっていいだろうに」
「わかりましたよ」
ジョーがふてくされたように向かい側のソファーに横になり、足を投げ出す。
「分かればよろしい」
アルベルトは再び本を読み始める。
頑張ればいつか報われる
大学時代の恩師がいつも言っていた。
頑張ったって報われた事なんてなかったから、それは選ばれた人の特権なのだと思っていた。
でも今は違うような気がする。
自分が人の役に立てる事
大切に想っている女性の笑顔を再び見れた事。
たとえそれが
片思いだとしても…
彼女が僕の車の助手席に乗ってくれる日がこんなに早く来るとは思ってもいなかった。
都会のお洒落なレストランとか若い女性が好きそうなカフェとか色々情報を集めていた。
でも彼女が行きたいと言ったのは山間の自然溢れた何もない所だった。
「空気がきれいね」
車から降りて深呼吸をする彼女を見ていた。
「本当にこんな何もない所でいいんですか?」
「何もないからいいんじゃない」
デートってこんなものなのだろうか?
「お弁当作ってきたの」
「え?」
レジャーシートを敷き、お弁当を食べることにした。
おにぎりとか唐揚げとか卵焼きとか…
これをいつも食べることができる人の顔を想像すると腹が立つが、今は自分の為のお弁当だ。
「いただきまーす」
澄んだ空気、美味しいお弁当、そして隣で笑う彼女。
「これからも…僕に出来ることがあったら何でも協力します」
彼女達の秘密を知ってしまったのは偶然だったのかもしれない。
でもいつかはこの日が来ると覚悟していたに違いない。
それだけ僕はこの人たちに関わりすぎていた。
「ありがとう…あの時はジョーを助けたいばかりにフィリップさんに無理をさせてしまって…
色々とショックだったわよね?」
「驚いただけです。何かあるのは前から分かっていましたから、どちらかといえばモヤモヤがスッキリした…というか…あ、すみません、そういう言い方良くないですよね」
一番のモヤモヤはフランソワーズが日本にいる事だった。
なぜバレエの夢を諦めて日本にいなければならなかったのか…それだけがいつもどこかで引っかかっていた。
「僕は夢を叶える事が出来たのに…フランソワーズさんは…」
思わず口に出てしまい慌てていると
「そうね、フランスでバレエを続ける事が私の夢だったのかもしれない…でも今は日本の子供達にバレエを教えるっていう新しい夢が叶ったわ。
そして子供達が上達して行って世界に羽ばたいてくれる事が今の私の夢」
新しい夢を語るフランソワーズの顔は嬉しそうで、フィリップは先程の自分の台詞を恥じた。
「フィリップさんの夢を守るためにも、私の夢を守るためにも…その為なら戦える」
「僕も同じ気持ちですよ」
彼女達と同じようには出来ないけれど、自分にも平和を守る為に戦う事が出来る。
お弁当を食べ終わると、フィリップは名残惜しそうに帰り支度をする。
「ごちそうさまでした。今日はありがとう」
「あら、まだ大丈夫よ」
「あんまり長くフランソワーズさんを独り占めしていると後が怖いから」
「今頃くしゃみしているわよ」
顔を見合わせると2人同時に笑った。
〜おしまい〜
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