翌朝早い便で出たのに、日本に着いたのは夜遅かった。
彼の住むマンションは、交通の便が悪い。
駅からも距離がある。
住もうと思えば生活に便利な所に住めるのに、生活に不便な郊外のこの町を選んだんだろう。
車があるからと彼は言っていたが、車がない私にはマンションに辿りつくまでが果てしなく長い時間に思えた。
でも
その長い時間に心に燻っていたわだかまりが少しづつ解け出す。
女王と抱き合っていた事は今でも許せない。
でもイワンの言ったように、彼は孤独に敏感だから…
女王の孤独に共鳴しただけ…だとしたら?
彼のマンションが見えてきた。
立ち止まり深呼吸をする。
彼の部屋の電気は消えている。
もう寝てしまったのかしら?
ここからなら透視できる。
透視する前に見えたのは、
ベランダでポーッと星を眺めている彼の姿。
彼も彼できっと心に燻っていた物があったのだと思う。
エントランスのインターホンで彼を呼び出す。
夜中の来訪者に最初は怪訝な顔をしたが、モニターに映る私を見るなり「今、降りるから待ってて!」と言った。
「いいわよ、部屋にいて」
エレベーターに乗り込み深呼吸をする。
先生に言われた事を頭の中で繰り返す。
「信じる…」
傷つきたくなかったから、彼を問い詰めなかった。
彼もまたきっと言えなかった事があったはず。
彼の部屋のドアの前でもう一度深呼吸する。
チャイムを鳴らす。
私はドアを開けた彼に抱きついた。
「フランソワーズ…」
彼は夜中に突然帰ってきた私に驚いているようだった。
「あなたへの私の気持ちを全部語ってからフランスに帰る事にするわ、長くなるからなかなか帰る事が出来ないけれど」
彼は
「おかえり…ごめん、キミを不安な気持ちにさせていた」
と言い、身体を離した私をもう一度抱き締める。
「もういいわ、ここに来る前に解いてきたから」
「解く?」
「あなたに対しての心の中にあったわだかまりよ」
彼はきょとんとした顔をして私を見た。
「でも…まだ最後まで解いた訳ではないの」
私は彼の耳許で
「最後はあなたに解いてもらいたいから…」
と呟いた。
「…そっか」
彼が身体を離す。
「なかなか厄介なわだかまりみたいだから、朝までかかるかもしれないな」
彼の顔を見ると、悪巧みを考え出したいたずらっ子のような顔をしている。
「お手柔らかに」
私は笑う。
彼は私の肩を抱き、部屋に招き入れる。
部屋のドアがぱたんと閉まった。
~おしまい~
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