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穏やかな春の日に 6

前回作文に拍手ありがとうございます!

連載6話です。

続きからどうぞ。



拍手






フランソワーズはいつからか、海を見ていたらあの青年がやって来る、という事を期待するようになった。

「こんにちは」

またどこからともなくやってきた。

青年は、フランソワーズの隣に座る。

「今日もいい天気だね」

お互いの身の上話をする訳でもなく、それどころか名前すら言わない。

「あなたは…何者なの?」

フランソワーズが思わす口にする。

「うーん、何者なんだろう…実は自分でもわからないんだ」

「え?どういう事?」

「記憶がないんだ」

フランソワーズは青年を見ながら言葉を失う。

記憶が?

「記憶がって…何もかも?」

「うん、何も覚えていないんだ」

「あなたは今どこにいるの?」

「あっちの病院」
というと青年は指差した。

少し距離はあるが、小高い丘の上に建物がある。

ここから1番近い総合病院。

「抜け出して来たの?」

「海がね…海を見ていると落ち着くんだ。だから記憶も戻るかと思って…。
桜並木で会った時、最初に脱走したんだ。そろそろ帰らないと見つかる時間かな」

「何も…思い出せないの?」

「うん」

記憶を失った孤独。
今の自分の孤独の数倍辛いだろう。
自分が何者かわからないのだから。

フランソワーズは、思わず青年を抱きしめた。

「え?」
青年は戸惑ったが、フランソワーズが自分の為に涙を流している事に気づくと、抱きしめられたままこう言った。

「何だか懐かしいよ」





海岸道路に車が止まる。

助手席の窓が開く。

「フランソワーズ、何やってんだ?」
ジェットが海岸の光景に訝しむ。

「フランソワーズもショックなんだよ」
運転席のピュンマが、静かに言う。

「早くジョーが見つからないと…あいつは…」

ジェットはその光景を見ながら、窓を閉める。




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