「へぇ、凄い家が建ったんだね」
ジョーが新しい家を見上げる。
フランソワーズはジョーを新しい家に案内する。
この瞬間をみんなが待ちわびていた。
きっと戻って来ると信じていた。
だから誰もこの地を去ろうとしなかった。
ジェットとピュンマがジョーに抱きつき
「幽霊じゃないよな?」と頬をつねる。
ジョーは笑いながら「痛たたた」と頬を押さえる。
ジェットはジョーと同じ体験をしてきた。
2人は同じ事を言う。
気がついたらここにいた…と。
ジェットがジョーに耳打ちする
「お前がいない間、フランソワーズはいつも海に行っていて、誰もいないのにあたかも隣に誰かいるかのように話してるんだ…気が違ったかと心配してたんだぜ」
「そうなんだ…」
ジョーはフランソワーズを目で探したが、姿がなかった。
みんながジョーを囲んで騒いでいる間、フランソワーズはイワンの部屋にいた。
イワンはあれから眠り続けていた。
博士の診察ではどこにも異常がないという。
「あなたなの?」
フランソワーズの問いかけに答える事もなく、普通の赤ん坊のように眠っている。
彼等を宇宙に飛ばした事でイワンを責めた。
何故自分も一緒に宇宙に送らなかったのかと…。
イワンがフランソワーズを送らなかったのは、まだ2人を助ける手段があったからで、他のみんなを安全な場所に飛ばした後、意識を失ったまま。
「もう目が覚めてもいいんじゃない?
寝ぼけ王子様」
イワンにかかった毛布を直す。
「手荒い歓迎だったよ」
ジョーがイワンの部屋に入ってきた。
「…眠ったままなの?」
「ええ…」
「キミは僕がいない時間が長かったのかもしれないけど…僕にはその長い時間がないんだ。あの時宇宙で意識を失い、気がついたらあの砂浜に立っていたんだ。
キミがどんな思いで今までいたのかも…僕にはあっと言う間だったから…」
戸惑うジョーにフランソワーズは笑う。
「こうやって無事に戻ってきてくれただけで充分よ!あなたの部屋、まだ何もないけれど…見る?」
「用意していてくれたんだ」
「もちろんよ、きっと気に入ってくれるはずだから!」
フランソワーズがジョーの手を引く。
部屋のドアを開け、ジョーが感嘆の声を上げる。
「すごいや」
まるで目の前に海があるかのような大きな窓。
「博士があなたの為に特注で作ってくれたのよ」
フランソワーズは窓枠に腰掛ける。
ジョーは隣で大きなガラスに手をかけて外を見る。
「あなたのいない間、ある人と知り合ったの」
ん?とジョーはフランソワーズを見る。
「桜が満開になった並木道で具合が悪くなって、心配してくれた人。
その後この海岸で再会したの」
ジョーは黙ってフランソワーズの話を聞く。
「彼は記憶喪失で、海が好きだという事しか知らなかった。
でも私が海岸を散歩しているとどこからともなく現れて、しばらくお話するの。
天気の話とかこの辺にある美味しいパン屋さんの話とか…ホントたわいのない話なの」
ジョーは再び海を見る。
「彼の存在は私を助けてくれた…そして昨日の夜、彼は記憶が戻ったと言ったわ…そして彼は存在しない人間だった。と私に告げたわ…」
フランソワーズがジョーを見上げる。
ジョーはそれに気づき視線をフランソワーズに戻す。
「そしてその翌朝あなたが帰ってきた…あなたに抱きしめられた時わかったの。
あの時のあの人はあなただったんだって。
あなたの想いが実像となって現れたんだって。」
フランソワーズは俯く。
「でもあなたに何も記憶がないから…きっと私が作り出したあなたの姿だったのかもしれない…」
ジョーは右手をポケットに入れるとあるものを取り出し、フランソワーズの目の前に手を開いて見せた。
「え…?」
ジョーの手のひらには桜の花
まだ綺麗なままで…
「記憶はない、でも何かは起こっていたのかもしれないね」
強い意志
信じる気持ち
きっと帰って来る
それだけを日々願っていた。
フランソワーズの目から涙が流れる。
ジョーは身をかがむと、座っているフランソワーズにキスをした。
「約束」
にっこりと笑う。
フランソワーズも泣きながら笑う。
ジョーはフランソワーズの涙を指で優しく撫でる。
「これからも…ずっと約束」
ガラスに手をついてフランソワーズの動きを封じる。
フランソワーズはジョーの両腕に動きを塞がれたまま、目を閉じた。
〜おしまい〜
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