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ここには何もないからと再び電車に乗り、隣の駅で降りる。
ちょっと大人びたレストランに入る。
「この辺の高校に通っているの?」
「うん、さっきの駅から近いんだ」
高校生は慣れないナイフとフォークに格闘中だった。
「おねえさんはどこに住んでいるの?」
「かなり遠出してきちゃった」
言葉のわりには楽しそうな顔をしているフランソワーズに、高校生もそれ以上は聞かなかった。
フランソワーズは高校生のいい食べっぷりに、自然と笑顔になる。
「旨いね、ここ。高校生の分際じゃあなかなか来れないけどね」
「今度彼女を連れて来ればいいわ」
「いないよ」
「あら、イケメンさんなのにね」
高校生が顔を上げる。
「おねえさんは結婚してるの?」
「うーん、してはいないけど・・・」
「パートナーは、いるんだ・・・」
「ま・・・ね」
「日本人?」
「ええ」
「そうだよね、だから日本にいるんだよね、おねえさんはどこの国の人なの?」
「フランスよ」
「へぇ、フランス人なんだ」
高校生は水を一気に飲みほす。
ウェイターが気づいて水を足す。
「日本語上手いね、覚えるの大変だったんじゃない?」
「え…まぁ」
翻訳機能…なんて口が裂けても言えない。
「外国で、大変じゃない?」
そんな事聞かれるとは思わなかった。
「そうね、異文化は色々大変だけれど、もう慣れたわ。」
高校生はナイフとフォークを置いた。
「俺さ・・・、逃げているんだ」
その言葉の意味を理解できず、じっと次の言葉を待つ。
「今はとても楽しい、友達も沢山いるし、学校だって」
「そう」
自分の学生時代を思い出す。
楽しかったな。このままこの日々が続くと思っていた。
「そろそろ進路を考えなければいけなくなって・・・ずっとこの日々が続くと思っていたから、現実を突きつけられたようで」
うつむき加減だが、はっきりとした口調。
「友達はみな、それぞれの道を模索していて、自分だけ取り残されたような気がしているんだ。何になりたいって夢もないし・・・ただ、今が楽しければいいと思っていたんだ」
「そうなの・・・でも・・・」
フランソワーズの言葉に高校生は顔を上げる。
「夢がないって言っているけど、今のあなたには可能性が沢山眠っているわ。まだ遅くはないと思う。時間がかかったっていいじゃない。何かこれってものに出会うのに、急ぐことはないわ」
「・・・そう?」
「だから学校休まないでちゃんと行きなさい。まずは卒業しないと」
「はは、実は時々海岸でぶらぶらしてました」
「もう、おうちの方が聞いたら呆れるわ」
「ねぇ、おねえさんの連絡先教えてよ、これも何かの縁じゃない?」
「そうね・・・あ」
鞄の中を探そうとして気づく。
「携帯、家に置いてきたの。実は私も現実から逃げてきたの」
「ええ?」
「連絡取れないように」舌を出す。
「おねえさんだって、俺と同じじゃん」
「そうね」
「パートナーさん、心配してるんじゃない?」
「怒られるかも、今日は大事な用事があって、彼も私の為に時間を空けてくれていたから」
「あーあっ、フラれたら、俺んとこ来ればいいさ」
「え?」
「なんてね」
高校生は笑う。
思わず笑い返す。
「おねえさんに話をして、少しすっきりしたよ。ありがとう。こんなにおいしいランチまでごちそうになってさ」
高校生はノートを1枚切り、そこにペンで何かを書いた。
「俺の連絡先、今はまだ学生だけど、そのうち恩返しができるよう頑張りますから」
メモを見て微笑んだ。
「楽しみに待っているわ。私も帰ったら連絡するわね」
「ホント?パートナーさんに怒られない?」
「彼はそんな器の小さい人ではなくてよ」
「ノロケてる」
「もう、学校戻る時間じゃないわよね」
「まぁ・・・ね」
また説教かとちょっと小さくなる。
「ねぇ、ちょっとこの辺案内してくれない?」
「こんな田舎町だけど、いいの?」
「ええ、田舎町だからいいの」
「ふーん、変っているんだね、いいよ。」
2人はレストランを後にした。
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