約束の時間に現れた私を見ても、彼は表情を変える事はなかった。
全てを捨ててきた私に彼は何も言わず、ただ手を握ってくれた。
多分それが彼の精一杯の気持ちなのだろうと、その手のぬくもりに涙を流す。
日本に着くと目まぐるしく事件が起こり、彼への気持ちなど改めて感じる暇はなく、気がつけば地球を見下ろしていた。
何も言わず黙っている私に、彼がそっと近づいた。
「ごめん、キミをまた危ない目に遭わせている」
別に彼が悪いわけではない。
それが私の運命なのだから…。
「あなたに再会してから色々ありすぎて、ゆっくり話もしていなかったわね」
そう言うと彼はクスッと笑う。
「確かにそうだ」
「あなたはまだ走っているの?」
シーズンになれば名前を見なかった事はない、順位だって常にチェックしていた。
でも…何も知らないかのように話してしまう。
「まあね」
彼はそっけなく返すと、その話を終わらせる。
「キミはかなり活躍してるようだよね」
「え?」
驚いて彼を見る。
「実はヨーロッパに滞在している時、時間があればキミの公演を見させてもらっていたよ」
「え…来てくれていたのなら顔を出してくれれば…」
私だって…どんなに会いたかったか…。
「キミが人間らしく暮らせている時には、ボクは不要なんだよ…」
この人は、私の気持ちなど何も解っていない。
人間らしく暮らせている時にこそ、あなたに会いたいのに…。
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