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フランソワーズの手術は無事終わり、兄を探す為にパリに渡った。
あれからかなりな時間が経っていたが、ジャンはフランソワーズと暮らしたアパートでフランソワーズの帰りを待っていた。
常識では考えられない今の自分の状況を納得して貰えるまで時間を要したが、納得…と言うより、起こってしまった事実として消化してもらったようだった。
パリに渡り1ヶ月経った頃、ジョーに迎えに来て欲しいと連絡があった。
最強の戦士も、恋人の兄からの呼び出しにビビりながらもケジメをつけなきゃと出掛けて行った。
ジャンは30代半ばの空軍パイロットだ。
ジョーの誠実な態度に、ジャンも殴るという行動はなかったらしいが、かなりな針のむしろ状態だったと、帰国したジョーは派手に疲れていた。
でもちゃんとフランソワーズを連れて帰ってきたんだから、大したものだ。
まぁジョーの「ケジメ」はつけられたんじゃないかと…思う。
2人が帰国してからは、平穏な日々が過ぎていた。
何もない…これが一番の幸せなのだろう。
その何もない日々が一本の電話で騒がしくなる。
その電話は、前日来日したばかりのアルベルトが取った。
「ジョーか?」
第一声がそうだった。
「いや、ジョーは今出かけていますが…」
「じゃあフランソワーズは?」
「フランソワーズも出掛けてますが…どちら様で?」
「ジャンです。ジャンアルヌール」
フランソワーズの兄貴か!
「何かご用件があるなら伝えておきますが…」
「いや、実はね、日本に来ちゃったのよ、今、空港。誰か迎えに来てくれない?」
…兄貴…。
「じゃあこれから向かいますから。
」
空港に着くと、待ち合わせの場所に急ぐ。
ジャンの顔はすぐわかった。
…フランソワーズ…お前の兄貴、ジョーに似ているぞ…。
笑いを堪えてジャンの元へ行く。
「お待たせしてすみません、はじめまして、アルベルトハインリヒと申します。」
ジャンも椅子から立ち上がり
「妹がお世話になってます」と握手をする。
年代はアルベルトと同じくらいだ、ジョーを欧風にして少し老けさせた…と言えばいいか。
フランソワーズと同じ髪の色だ。
空軍パイロットだからか、目は鋭い。
「じゃあ、行きましょうか」
車窓に流れる景色を物珍しく眺めている。
俺も最初はそうだったな。と、自分が初めて「自分の足で」来日した時を思い出していた。
…あの時は、空港にジョーとフランソワーズが迎えに来てくれていたな…。
あの頃から…そうだったのかもな…。
フランソワーズの兄貴の前で考える話じゃない。
「何故、奴を…ジョーを殴らなかったんですか?」
妹が突然いなくなり、数年後にひょっこり帰ってきて、衝撃の告白をし、会ってもらいたい人がいる…。
この兄貴も相当な経験を短い時間で強いられた訳だ。
「フランソワーズの顔だよ」
「顔?」
「ジョーの姿が見えた途端に見せた笑顔だ…あれを見せられたら…。」
兄貴の複雑な胸の内が痛いほど解った。
親のいない分、大切に育てていたんだろうな…。
車はトンネルに入る。
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