15
気が付くと、パリにいた。
懐かしい風景。
あの角を曲がると、私と兄が住んでいたアパートがある。
階段を駆け上がる。
まだ住んでいるのかしら?
はやる気持ちを押さえながら、恐る恐る呼び出すと…。
「はい?…う、うわっ!!フランソワーズ!!」
兄が驚く。
何年戻らなかっただろうか。
兄は驚いていたが、ハグをして出迎えてくれた。
部屋に入るとあの日のままの風景に涙が出た。
バレエに明け暮れていたあの頃、何もかもが楽しかった。
「兄さん…あのね」
言いかけた時
「何も言うな…帰ってきてくれただけで嬉しい。」
兄は何かを知っているようだった。
「アイツ、いい奴じゃないか…」
え?
何故?知っているの?
「頼りない所も沢山あるが、お前の事を一番に考えてくれている…。」
「兄さん!!何故?」
「今度アイツも連れてこい、一緒に飲みたい。」
どうして?兄さん、何で知っているの?
え…。
また夢なの?
部屋には誰もいなかった。
久しぶりの兄の感触をしばらくぼうっと思い出していた。
何故あんな夢を?
ふっと我にかえる。
「ジョー、出掛けたのかしら?」
ジョーに胸の内をぶちまけた事と、眠ったからか気分はすっきりしている。
部屋を出て、リビングに向かう。
リビングは明かりがついている。
「あ、目が覚めた?」
ジョーが何かをしている。
テーブルの上には…ダイジンの手作り中華。
「ジェットが届けてくれたんだ、キミの事が心配で帰れないらしい。」
あのぶっきらぼうなアメリカ人が。
そう思うと可笑しくなる。
「ごめんなさい、迷惑かけて…もう大丈夫だから。」
「誰も迷惑なんて思っていないさ。ボクだってキミがワガママを言ってくれた事、本音をぶつけてきた事を嬉しいと思っているんだから」
思い出すと恥ずかしい。
あなたにあんなこと言えるなんて…。
「ごめん、キミの不安に気づかなくって…」
「…え?」
「言葉に出さなくても想いは伝わっていると思っていた…何と言うか…そのぉ…」
ジョーが頭を掻く
「照れくさいんだよね」
フランソワーズはクスッと笑う。
ジョーはいつもまっすぐ見ていてくれていたのに…。
気づかなかったのは自分の方だと。
フランソワーズはジョーと向かい合う。
「私…手術受けてみるわ」
ジョーが目を細める。
「いいのか?」
「ええ…手術したら、バレエを始めてもいい?」
「いいんじゃない?」
「パリに帰ってもいい?」
ジョーはちょっと不安な目をした。
「兄を探すだけよ。」
ジョーはうつむいて少し笑う。
「そうだね…お兄さん、見つかるといいね」
「見つけたら、あなたを紹介するわ、兄は空軍のパイロットだから覚悟しておいてね!!」
「…2、3発殴られる覚悟で会わないと。」
「あなたと兄、きっと気が合うはずだわ!!」
「何故わかるの?」
「だって…私の大好きな人達ですもの」
うつむいたフランソワーズが可愛くて、ジョーは思わず抱き締めた。
焦らないで少しづつ、私の「普通」を増やしていこう。
「ありがと」
ありったけの思いを込めてジョーにキスをした。
~おしまい~
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