ジョーはパソコンで、今日起こった殺人事件の記事を読んでいた。
電車内の些細な言い争い。
回りにいた人達は、自分は関わりたくないと、無関心を装っていた。
見ていられなかったのだろう、正義感のある一人の女性が ケンカを止めに入ったが、言い争いをしていた男に刺された…という。
フランソワーズがその車両に乗っていたら…。
間違いなくその女性と同じ行動を取っていただろう。
「…ジョー…」
フランソワーズが目を覚ました。
ジョーはパソコンをシャットダウンすると、ベッドに向かう。
フランソワーズは震えていた。
「私…あの人を助けられなかった…」
「…もう、考えるな…」
ジョーはフランソワーズを抱き締める。
「あの人…助けて…って…最後まで言っていた…」
涙が流れ落ちる。
助けられなかった無念さ、憤り、目の前でひとつの命が消えてしまった。
ジョーにはただ抱き締める事しか出来なかった。
自分がそばにいるから…と強く抱き締めた。
ジョーの胸でフランソワーズは泣いていた。
泣いても亡くなった人は戻っては来ないのに…。
慣れることはない、慣れたくもない、もうこんな無念は終わりにしたいのに…。
時間が経ち、記憶が薄くなっていくまでこの辛さを背負わなければならない。
ジョーはフランソワーズの涙を指で払う。
「人より優れた耳を持っていたって…命を救う事は出来なかった…ただその場に駆けつける事しか出来なかった…どうせこんな身体にされたのなら…」
「…フランソワーズ」
ジョーは若干非難まじりに名前を呼んだ。
「だって、そうでしょ?人より耳が聞こえるだけ、目が見えるだけで一体何が出来ると言うのよ‼︎」
ジョーはフランソワーズを強く抱きしめる
「もういいから…落ち着いて…」
自分達だって心は並の人間だ。
気持ちが高ぶってしまうのも無理はない。
フランソワーズが眠るまでジョーは側から離れようとしなかった。
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