7
アパートに戻り、冷蔵庫に食材をしまう。
機嫌のいいフランソワーズに、疑問を持ったジャンがジョーを呼ぶ。
「昨日と全然態度が違うじゃないか、どうしたんだ?」
ジョーはにこっと笑い
「魔法をかけましたら」と言う。
は?という顔をしているジャンに
「兄さん、明日は鍋パーティーよ!!」
フランソワーズが土鍋を掲げる。
「鍋?」
あと1時間程でジュリアが来るという。
それまでフランソワーズは自分の部屋の整理を始める。
部屋に入るとあの頃の気持ちが甦る。
バレエしかなかったあの頃の自分。
「思い出すのは辛いことかもしれないけど、思い出が消えてしまうのはもっと寂しいわ…」
数々の盾やトロフィーを眺めていたジョーが振り返る。
「お義兄さんは…」
ジョーがトロフィーを手に取り、埃を払いながら話し出す。
「キミが戻ってくるまでこのアパートから離れようとしなかった…それがどれだけ辛いことか解る?キミが帰ってきた事で、お義兄さんは次のステップに行こうとしているんだよ。」
本心は多分、フランソワーズに帰ってくるな、と言いたいんだろう…と。
つまりは自分が生涯彼女と共に生きるとお義兄さんが認めてくれた訳で…。
「パリに私の居場所はないの?」
「そんなことはないよ、ジュリアさんと一緒に住んだって、キミが帰ったら喜んで泊めてくれるよ。」
「…そう」
ジョーには、そのような経験がないから上手く言えているか自分でもよくわからないが、離れていたって家族は家族だ。
ましてや2人きりで生きてきた兄妹だ。
家族の形体が変わろうが、その根の部分は変わらないだろう。
「しかし、すごい数のトロフィーと盾だね。小松さんに見せたい位だ」
ジョーは段ボールにバレエで獲得したトロフィーと盾をしまう。
「昔の話よ…」
寂しそうにぽつりと言う。
ふとフランソワーズがバレエで世界を飛び回っている絵が浮かんだ。
「あの日」が何事もなければ…キミは今頃…。
考えるだけ無意味な事に気がついたジョーは、気持ちを切り替える。
「フランスはイブの夜ってどうやって過ごすの?」
「カップルで過ごすのは年末なのよ、クリスマス休暇は実家に帰る人が多くて、イブは家族と過ごす方が多いわね、そうだ、明日の夜ミサに行かない?」
「クリスチャンじゃないけど?」
「イブの夜はいいのよ、仏教でも」
「…仏教でもないけど…」
話ながら手を動かし、気がついたらフランソワーズの部屋の物は大体段ボールに収まった。
「これを後で兄さんが日本まで送ってくれれば…」
段ボールをガムテープで固定する。
「楽しかったわ…ありがとう…さよなら」
自分の青春時代に別れを告げたのだろう。
ジョーはフランソワーズの側に立つ。
言葉にならなかった。
彼女の気持ちを思うと、切なくなる。
寂しそうな横顔をただ眺めていた。
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