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ここ数日、ジョーの帰りが遅かった。
別に帰りが遅くても、個人の自由だ、とやかく言うことでもない。
…いえ、言える立場ではない。
たとえ彼が、女性の香りを漂わせて帰宅したって、私には…。
関係がない。
そう…あの頃の私達はそのような関係じゃない。
だからジョーを怒るのは筋違い。
そうなのよ…。
…ここは…。
私はどうしたの?
ぼんやりと辺りを見回す。
見たことのない景色。
「あ、具合はどう?」
ジョーが覗きこんだ。
タキシードのジャケットを脱ぎ、シャツを腕まくりしている。
「全く…無茶するよ…」
フランソワーズはジョーから目をそらす。
「…ここは、どこ?」
「宮殿のゲストルームだそうだ、今夜はここに泊めさせてもらおう。」
「王女様は、無事?」
「ああ」
「そう…よかった」
ジョーはフーッとため息をつき、ベッドサイドに腰掛ける。
「何故あんな無茶をした?」
「通信が…そう、周波数を知られていたわ‼︎」
「大丈夫だ、イワンが発信元を突き止めた。アルベルトとグレートが向かっている」
「だって、王女様を守らないと…」
「心臓が止まるかと思った」
フランソワーズはジョーの顔を見ずに反対を向く。
「私がいなくなったって、王女様があなたを愛してくれるわ」
「何を…言ってるんだ?」
「私がどうこう言う問題じゃなかったんだって…気づいたわ。あの頃私とあなたは何もなかったんだから」
胸の痛みだけは覚えていた。
「つまりは…君はまだ許していないってことか…」
「許すも何も…私にはあなたを責める資格はないわ。それに…」
「それに?」
「あなたが普通の男性として過ごしたいと思った時、私はあなたにとっての普通じゃないんだって…。じゃあ身分を隠した王女様の方がずっと…」
ジョーはフランソワーズの話を、悲しそうな顔で聞いていた。
しばらくは黙って聞いていたが、フランソワーズの言葉が止まると、静かに言った。
「キミをここに連れて来る事は間違いだったと今後悔しているよ。」
ベッドサイドから立ち上がり、扉に向かって歩き出す。
扉に手をかけると
「隣の部屋にいるから、今夜はゆっくり休むといい。」
パタン
扉の閉じる音と、段々遠くなる靴音。
フランソワーズは枕に顔を伏せ泣くしかなかった。
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